最高裁判所第一小法廷 昭和24年(新れ)146号 決定 1950年4月06日
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人坂上寿夫上告趣意について。
所論は第一審判決は被告人が公定価格を超過した判示金額で判示物品を売却する目的で判示日時場所において所持していたと認定しておきながら法の適用においては物価統制令一三条ノ二同令三五条を挙示しただけで判示物品の価格を定めた物価庁の告示を挙示していない。ところが判示の示しているように、右告示は単なる行政処分でないから、この適用につき誤りあるときは擬律の錯誤として取扱わるべき筋合であることも幾多の判例の示すとおりである。されば第一審判決には重大にして明瞭な瑕疵あるにもかかわらず、原審がこの瑕疵を看過して第一審判決を是認したのは、従来の判例に違反するものであって延いて憲法三一条に違背するものである。仮りに同条に違背しないとしても、すくなくともかかる重大なる法令の適用に誤りある原判決は第一審判決とともに刑訴四一一条によって破棄せらるべきものであるというに帰する。しかし第一審及び原審が被告人に適用した所論統制令一三条の二の違反の罪は、その成立に、物価庁告示の価格を超過した価格で物品を取引することを必要とするものではなく、統制価格を超過した価格等で取引する目的で物品を所持することだけで成立するものである。従って、所論物価庁告示の価格を超過した価格であることは単に本件犯罪の動機目的たるに過ぎないもので、犯罪の構成事実ではないといわなければならぬ。されば第一審判決の判示事実に対する法律の適用においては同令一三条ノ二同令三五条を挙示すれば足り所論告示を挙示すべき筋合ではないから、第一審判決及び原判決はいずれも所論のような判例に違反するものではなく又所論憲法に違背するものでもない。従って所論は刑訴四〇五条所定の上告適法の理由にあたらないしまた同法四一一条を適用すべきものとも認められない。
よって刑訴四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項に従い主文のとおり決定する。
この決定は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)